私たちは「醜いもの」に興味を抱いてしまう。
ときには「美しいもの」よりも「醜いもの」の方に目を奪われるほどに。
それでは、私たちがこれほどまでに関心を寄せる醜さとは、一体何であるのだろうか。
この問いへと答えを与える美学理論の数は、美しさを探究する理論に比べて乏しい。
そうした未解明の醜さの一つを解明する理論を展開することが本書の目的である。
純粋な美しさに対置される純粋な醜さの説明をするために、
本書が注目するのがカントの美学である。
カントは醜さを説明する理論を明示的には展開しておらず、
醜さに関する言明自体も数えるほどしか存在しないが、
カント美学の奥深くにあるいわば隠された理解を掘り起こし、それらを再構成することで、
純粋な醜さを説明する「醜さの美学」の構築を目指す。
この新しい美学は、今後、醜さはもちろん、
美しさを考える上でも一石を投じ、研究のアクチュアリティに寄与する。