肥満は体脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態であり,肥満がただちに疾患に分類されるわけではない。
日本肥満学会は肥満者のなかから医療の対象となる集団,すなわち,減量によって合併している健康障害の改善や,将来起こり得るさまざまな疾病を予防することが期待できる集団を選び出すために「肥満症」の概念を提唱し,この概念に沿った診療の実施を推奨している。治療対象をBMIのみで定義するのではなく,健康障害の合併や内臓脂肪蓄積に基づいて抽出するという考え方は,国際的にみても極めて先駆的なものといえる。
2016年版の発行以降に,小児や高齢者の肥満と肥満症に対する国内外の知見が増えたほか,おもに高度肥満症を対象としてわが国でも外科療法が保険収載され,その有用性が検証されるなど,肥満症の診療を取り巻くさまざまな変化がみられている。さらに,長らく進展に乏しかった肥満症治療薬の開発に関しても,日本人を対象として良好な治験結果が公表されるなど,新たな肥満症治療薬が登場する兆しがみられる。
しかし,肥満や肥満症をもつ個人のQOLの維持・向上を,個人に対する医学的介入のみで十分に達成することは難しい。肥満や肥満症の発症には,他の慢性疾患と同様に遺伝的な要因,生育や発達における要因,社会的要因などを含むさまざまな要因が関係するにもかかわらず,必要以上に食習慣など個人の生活上の要因に帰せられる傾向がある。「自己管理能力が低い」という偏見,社会的スティグマ(不理解による誤った認識)や,自分自身の責任と考える個人的スティグマも存在する。「自己管理の問題であって,医療を受ける対象ではない」という誤った理解は,適切な治療の機会が奪われることにもつながる。
肥満症は多様な健康障害の発症や増悪・進展の要因となることからも,対応にあたっては,広い領域・職種の連携が重要である。本ガイドラインを通じて,肥満症を治療することの重要性,すなわち肥満症を治療することにより合併する複数の健康障害を一挙に改善できるということを,できるだけ多くの方々に理解して頂きたい。
【目次】
第1章 肥満症治療と日本肥満学会が目指すもの
第2章 肥満の判定と肥満症の診断基準
第3章 メタボリックシンドローム
第4章 肥満,肥満症の疫学
第5章 肥満症の治療と管理
第6章 高度肥満症
第7章 小児の肥満と肥満症
第8章 高齢者の肥満と肥満症
第9章 肥満症に合併する疾患の疫学・成因・予防・治療
第10章 肥満・肥満症の予防,保健指導
第11章 肥満症治療薬の適応および評価基準